ネットイヤーグループ様
日本のWebマーケティングの先駆企業、ネットイヤーグループの高京樹氏 水下雄一郎氏に、同社が抱えていたナレッジ共有の課題および、その課題の解決策として社内SNSを選んだ経緯について、詳しく聞いた。
ネットイヤーグループについて
- ネットイヤーグループについて教えてください。
ネットイヤーグループは、Webセントリック・マーケティングに強みのあるマーケティング会社です。ブランドサイトづくりからプロモーションまで、Webマーケティングサービスをワンストップで提供しています。SKIPは、社内のナレッジ共有とコミュニケーションの活性化を狙って2009年11月に導入しました。
SKIPの活用状況
- SKIPの社内での浸透度を教えてください。
SKIPの、社内での浸透度は次のとおりです。90%近くの社員が毎週アクセスしており、ブログへの投稿も一定数以上ありますので、活用度合いは悪くないと認識しています。社員とトップ層が共に情報を発信・共有し、お互いに反応しあうコミュニケーションの様子が見えるようになってきており、「新しい社内メディア」として確立されつつあります。
社内SNSを導入した目的
- ネットイヤーグループが、SKIP(社内SNS)を導入した目的を教えてください。
今回のSKIP導入は、「売り上げ向上のための投資」です。
「ナレッジ共有の推進、コミュニケーションの活発化」→ 「顧客への提案品質の向上」→ 「売り上げ増」
という流れを実現したいと考えました。
-「社内SNS導入が、売り上げ向上のための投資である」とは具体的には。
ネットイヤーグループはマーケティング会社であり、単純化して云えば、「良い提案をすれば、売り上げが向上する」業態です。顧客のマーケティング課題を、顧客以上に熟知し、その課題を解決する高品質の提案を行えば、競合他社と差別化もでき、発注量も増えます。提案の品質向上は、売り上げ増のキードライバです。
では提案品質を向上させるにはどうすればよいか。ネットイヤーグループは、設備産業ではなく、知識産業であり、文字通り「人がすべて」です。物理的な設備投資をせずとも、「社員の知的生産能力が向上すれば(※)」、品質は向上します。
※ ここでの「知的生産能力」とは、単なる知識量ではなく、「問題解決力」、「対人コミュニケーション能力」、「洞察力」など全人的な能力を指します。
よって「ナレッジ共有の促進」や「コミュニケーション環境の改善」をもたらすツールを導入することは、「社員一人一人の能力向上」、ひいては「提案品質の向上」、そして「売り上げ増」につながります。社内SNSのような、ナレッジ共有推進ツールの導入は、ネットイヤーグループにとって、「雰囲気的な教育投資」ではなく、「売り上げ増のための投資」です。
とはいえ、これは本格的に導入を検討し始めてから見えてきたことですが「ナレッジ共有による提案品質の向上」は一足飛びには実現できません。ナレッジを共有できる文化や、助け合える社員同士の関係性など「社内コミュニケーションの土壌」がなければ、ツールや業務制度を導入しても形骸化して終わるだけです。そこで「社内コミュニケーションの土壌作り」に目的のフォーカスを移しながら、ナレッジ共有ツールの検討を進めました。
ナレッジ共有上のかつての課題
- SKIPを導入することで、ネットイヤーグループが解決したいと考えた課題について、詳しく教えてください。
ネットイヤーグループには、かつて社内コミュニケーション(ナレッジ共有)を推進する上で、次のような課題がありました。
【課題1】有識者の有効活用が不十分
提案品質を向上させるには、「かつて優れた提案をした人」に質問する(そしてナレッジを共有する)のが一番ですが、かつてはそれが十分に達成できていませんでした。
【課題2】特定テーマにおける有識者が誰なのかを知ることが困難だった
そもそも優秀な人に質問するには、「(そのテーマについて)誰が優秀な人なのか」を事前に知っていなければいけません。しかし、社員数が200人弱に達し、また職場も3ヶ所に分散した状態では、そのKNOW-WHOが不十分でした。
【課題3】ナレッジ共有のための業務プロセスが十分に確立していなかった。
ナレッジ共有を、組織的に担保する「しくみ」が十全でありませんでした。
こうした社内コミュニケーション上の課題を解決するために、何らかのコミュニティツールや業務制度を導入する必要があると以前から検討していました。
二つの要件
- ナレッジ共有のためのツールとしては、メーリングリスト、社内ブログ、社内ポータル、検索機能付き文書管理システムなど多くの選択肢があります。今回、SKIPのような「社内SNS」という手段を選択した理由は何ですか。
おっしゃるとおり、ナレッジ共有には様々な手段があります。しかし、今回はナレッジ共有ツールを選択する際に、「ベーシックな関係性の確立に有用なこと」と「KNOW-WHOの確立に有用なこと」の二点を要件としたため、最終的にコミュニティ機能を有した「社内SNS」という手段を選ぶことになりました。また、利用形態はSaaS型を選択しました。SaaSであればスモールスタートもできますし、リスクがあればいつでも停止できますので。
互いの顔と名前が分からないのが、最大の障壁
- 要件1.「ベーシックな関係性の確立に有用なこと」とは具体的には。
「ベーシックな関係性の確立」とは、「社員が互いの顔と名前を知っていること」とも言いかえられます。
ネットイヤーグループの創業期、まだ社員数が十数人だった頃は、社員同士が互いをよく知っていました。しかし、現在は、人数が多くなった上、職場も三箇所に分かれたので、同じ社員なのに「知らない人」が増えました。「知らない人が多くなった」というと、単純な話に聞こえますが、その状態こそが、実はナレッジ共有において大きな障害となります。
我々はナレッジ共有、提案品質の共有というときに、つい論理的で活発な議論、高次元のコミュニケーションを想像しがちです。しかし、そうした「プロフェッショナルの関係性(組織連携)が成立するのは、議論ができるのは、そもそも「ベーシックな関係性(相互理解)」が成立していることが前提です。ベーシックな関係性とは、「何となく互いを知っている状態」、「何となく話しかけることが可能な状態」など「何となく~」の関係性であり、従来それは「タバコ部屋」、「飲み会」、「社員旅行」などで確保されていました。しかし、そうした手段が新入社員にとって、なじみにくいものとなった現在においては、Web上でオープンにコミュニケーションが行えるツール、つまり、「互いに、何となく交流しあえるツール」が意味を持つのです。
「KNOW-HOWよりも、KNOW-WHO」
- 要件2.「KNOW-WHOの確立に有用なこと」とは具体的には。
ナレッジ共有における「KNOW-WHO」とは、「自分が知りたい情報をすでに知っている人は誰なのかを知っている状態」のことです。ナレッジ共有ツールは、「データよりも人」、「KNOW-HOWよりも、KNOW-WHO」という基準で選ぶべきだと考えました。
ナレッジ共有ツールには、「知識(データ)の整理整頓を重視するタイプ」と「その知識を持っている人とのコミュニケーションを重視するタイプ」の二種類があります。
「文書管理システム」などはデータ重視型のツールです。文書管理システムを使えば、図書館の書庫のように、情報を体系的に整理整頓できます。厳密な検索も可能になります。
しかし、こうしたあり方のシステムは、ナレッジ共有においては機能しません。仮に文書管理システムで「成功事例バンク」を作ったとします。それを使えば、過去の成功事例のパワーポイントがすべて検索できるとします。でも、実際にはパワーポイントをいくら読んでも肝心なことは、そのパワーポイントを書いた人に話を聞かないことにはわかりません。極端にいえば、パワーポイントなどなくても、それを書いた人に会えて、話が聞ければ、ナレッジの共有は進みます。このような「人を知る(KNOW-WHO)」においては、社内ブログよりもメーリングリストよりも、コミュニティツールの方が優れていると考えました。
以上二つの要件を満たすナレッジ共有ツールを導入することを決め、続いて、具体的な製品選択のフェーズに移りました。候補製品は、既に情報システム部門が調査済みで所有していた候補リスト(9社)を活用しました。
なぜSKIPを選んだのか |
- 9社の製品を比較する際に何を基準にしましたか。
まず第一に、「ブログ」、「いいねボタン」、「Q&A」、「全文検索」、「DB連携(SFDC等の)」、「ログ等の管理者機能」、「十分な無料トライアル期間」、「カスタマイズの柔軟性」などこちらが望むコミュニティ機能、サービス内容を備えているかどうかという条件で、「絞込み」を行いました。その結果、SKIPとA社の製品が残りました。
- 最終的にSonicGardenのSKIPを選択した理由は何ですか。
SonicGardenの方が、社内SNSの、導入、運営のノウハウにおいてA社より優れていると判断したからです。
A社は、大手商用SNSなどで実績はあるものの、最終的には「受託開発ソフトウエア会社」であるという印象がありました。一方、SonicGardenは、「TISという社員数3000人の会社における縦割り打破」というミッションを達成するために、SKIPを、導入・浸透させた経験を有しています。ネットイヤーグループの課題解決のパートナーとしては、SonicGardenの方が適切であると判断しました。
こうしてツールの選定が完了したので、改めて経営陣に向けて「コミュニケーションやナレッジ共有の強化を進めるために、SKIPを導入したい」と上申しました。
経営陣の反応 |
- 経営層の反応はいかがでしたか。
「ナレッジ共有」という大元の趣旨は理解されました。しかし、「本当に上手く行くのか」、「本当に皆が使うのか」、「誰も使わず、ホコリをかぶるのではないか」など懸念も出されたため、「まず部門内で小さく実験せよ」という結論になりました。
その後、結論に従い、32人の小グループでSNSを試験使用しました。その結果、「ブログやブックマーク等のSNS基本機能は概ね8割以上が賛成」、「提案業務に関わる機能は6割以上が賛成」など良好な反応となったので、「社内SNS(SKIP)の全社導入」が正式に決定しました。
セキュリティやトラブルの懸念は? |
- 全社導入に際し、情報漏洩などセキュリティ面を危惧する声はありませんでしたか。
セキュリティ担当者には、ナレッジ共有などの導入意義を説明しました。またSNS内に使用ガイドラインを設けることで納得を得ました。
- 使用開始にあたり、社内にはどのように告知しましたか。
全体会議の時に5分の時間をもらい告知しました。「これから社内ミクシィを始めます」という表現を使いました。
以来、半年にわたり、活用を続けています。冒頭で述べたとおり、使用状況は良好です。グループ会社の社員からの情報発信も増えてきました。ナレッジ共有の前提である「ベーシックな関係性づくり」が着々と進んでいます。
- 導入後、変な書き込みやケンカなどトラブルはありましたか。
そういうこともありうると覚悟していましたが、実際にはありませんでした。
社内SNS導入を成功させるコツ |
- 今回、実際にやってみてわかった社内SNS導入、運営のためのコツ、ツボ、注意点などあれば教えてください。
私見ですが、運営側のコツとしては、「いきなり高級な議論が始まると期待しないこと」、「業務と関係ない書き込みも多く発生するが、それをとがめないこと」などになると考えます。
当初、私は、社内SNSのような半ば公の場においては、「ソーシャルCRMについて」などのトピックが立ち、それについて専門的なディスカッションが始まるようなイメージを抱いていました。しかし実際はそうはならない。だって社内SNSの開始段階では、まだ互いの顔も名前も知らない間柄なのですから。
というわけで最初は、たわいのない話題が続きます。しかし、これをとがめてはいけません。そのたわいのない話で「ベーシックな関係性」を確保しない限り、高次のディスカッションは発生しませんから。
また運用を完全に自主性に任せた場合、やはり全く使わない人と継続して使う人に分かれることも、これから社内SNSを導入しようとする皆様にはお伝えしたく思います。「全く使わない人」を「少しでも使う人」に変えていくには工夫が必要です。
- 具体的にどのような工夫をされたのですか。
これまで行った工夫の中で有効だったのは、「メーラー経由で新着記事の通知を行うこと」です。社員の多くはメーラーで情報管理をしているので、メール通知には高い効果があります。
また「新着記事のRSSの業務ポータルへの表示」も実施しました。この施策を通じ、毎日のアクセス数が明らかに向上しました。
ネットイヤーグループでは、もともと社内ブログや「教えてください」メーリングリストなどを使って、社内のナレッジ共有に取り組んできました。SKIP導入の際にも、そうした既存の活動を、徐々にSKIP上に移し替えていったことが導入を成功させた要因の一つだと考えます。
ゆるく、強制せずに、まず自主的に使ってもらうのは良かったと感じています。とはいえ、いくつかの課題もあります。これからは改めてデータを蓄積するメリットやビジョンを明確に提示し、全社員の共感を促進し、自主的に行動をおこしやすい状況を作る必要があると感じています。
今後の期待 |
- SonicGardenへの今後の期待をお聞かせください。
今回、SKIPを導入したことで、ネットイヤーグループのコミュニケーション環境、ひいては提案品質を組織的に向上させるための土壌が整いつつあります。SonicGardenには今後ともSKIPを進化させていただき、ネットイヤーグループの提案力向上の取り組みをご支援いただくことを希望いたします。今後ともよろしくお願いいたします。
- ネットイヤーグループ様、本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。
【取材日時】2010年5月
「ナレッジ共有には『ベーシックな関係性』が重要だと理解できました
企業情報
ネットイヤーグループ株式会社
単体 154名/グループ連結 196名(2010年3月末日現在)
主に大企業に対して、インターネット技術を活用したマーケティング業務の支援をするWebセントリック・マーケティング、独自ソリューション開発、および新規事業開発を提供